輸血拒否患者に対する診療方針

輸血拒否患者に対する診療方針

鶴岡市立荘内病院は、宗教上の理由などにより輸血を拒否する患者さんに対する診療方針を次のとおり制定し、平成28年4月1日より施行します。

1 輸血実施に関する基本方針

当院は、宗教上の理由等により輸血を拒否する患者本人の思想や自己決定権を最大限尊重し、相互の情報提供と対話の中で信頼関係を構築しながら最善の治療を共に探り、患者の希望する輸血療法の代替療法についても検討を行うことを基本とする。ただし、輸血により生命の危険や重篤な後遺症の残存が回避できる可能性があると判断した場合は、「診療圏域住民の生命と健康を守る」という当院基本理念に基づき、輸血療法を行うこととする(以下、「相対的無輸血治療」という)。このため、免責証明書への署名は行わない。この方針は、年齢や判断能力の有無に関わらず全ての患者に適用する。

2 輸血拒否患者への対応に関する基本的な考え方について

(1)輸血療法による手術や治療まで時間的余裕がある場合

観血的治療が予見され、輸血療法の可能性が見込まれる場合には、主治医は患者及び家族に対して当院の方針を十分説明し、相対的無輸血治療の同意を得られるように努める。
その結果、同意が得られた場合は、(相対的無輸血治療に対する)同意書を徴取した上で、相対的無輸血治療を行い、同意を得られない場合は速やかに他院への転院を勧告する。
なお、患者又は家族が転院勧告を拒否した結果、手術等までに時間的余裕がなくなったものと認められるときは、主治医はカルテに経過を詳細に記入のうえ、上席医師の同意を得て「(2)緊急の場合」により対応することとする。

(2)緊急の場合

この方針において「緊急の場合」とは、緊急搬送された患者で、輸血療法のみが救命のための治療法である場合や、患者の容態が急変もしくは予定手術において想定外の事態が発生するなどして、輸血療法のみが救命のための治療法であると判断される場合などをいう。
主治医は、緊急時であって輸血療法以外に救命や重篤な後遺症の残存を避ける治療法がないと判断した場合は、患者や家族の意思に関わらず、上席医師の同意を得たうえで相対的無輸血治療を行うものとする。

3 具体的な対応について

(1)患者が18歳以上で医療に関する判断能力がある場合

(ア) 宗教的輸血拒否を表明する患者の診療に就いた場合、担当医は所属診療科主任医長に速やかに連絡するとともに、当該患者より免責証明書が提出され絶対的無輸血治療の申し出があっても、それには応じられない旨を伝える。また、免責証明書への署名を求められても、署名は行わない。

(イ) 輸血療法・当院の方針について十分な説明をしたにもかかわらず相対的無輸血治療に同意が得られない場合は、速やかに他院への転院を勧告する。

(ウ) 相対的無輸血治療の同意が得られている場合でも、やむを得ず輸血療法を行う際は、所属診療科責任者を含む上席医師複数名で輸血以外の治療法の模索と輸血治療の是非を決定する。

(エ)手術同意書、輸血同意書には、相対的無輸血治療の方針を明記し、院長はじめ副院長、診療部長および担当医名を列記して本方針が当院としての方針であることを明確にする。このため、輸血拒否患者に対する手術同意書、輸血同意書は、通常用いている同意書とは異なる様式とする。

(オ)緊急の場合には、相対的無輸血治療の方針のもと輸血治療を行う。すなわち、時間の許す限り患者及び家族に輸血の必要性を説明し同意を求めるが、患者本人および代諾者(家族)より相対的無輸血治療の同意が得られない場合でも (手術同意書、輸血同意書に同意が得られない場合も含む)、生命の尊重を第一義に考え救命を優先した相対的無輸血治療を行う。その際、家族や教団関係者などより物理的抵抗があった場合は、適宜対応する。

(カ)患者本人および代諾者への輸血療法に関する説明と同意を得るにあたっては、担当医のみならず上席医師など複数名の医師が同席して対応することを原則とする。

(2)患者が18歳未満、または医療に関する判断能力が無いと判断される場合

この場合については、宗教的輸血拒否に関するガイドライン(2008年2月28日 宗教的輸血拒否に関する合同委員会報告)に準ずる。

(ア)患者が15歳以上で医療に関する判断能力がある場合

  1. 親権者は輸血を拒否するが、当事者が輸血を希望する場合
    当事者は輸血同意書を提出する。
  2. 親権者は輸血を希望するが、当事者が輸血を拒否する場合
    医療側は、なるべく無輸血治療を行うが、最終的に必要な場合には輸血を行う。親権者から輸血同意書を提出してもらう。
  3. 親権者と当事者の両者が輸血拒否する場合
    18歳以上に準ずる。

(イ)親権者が拒否するが、当事者が15 歳未満、または医療に関する判断能力がない場合

  1. 親権者の双方が拒否する場合
    医療側は、親権者の理解を得られるように努力し、なるべく無輸血治療を行うが、最終的に輸血が必要になれば、輸血を行う。親権者の同意が全く得られず、むしろ治療行為が阻害されるような状況においては、児童相談所に虐待通告し、児童相談所で一時保護の上、児童相談所から親権喪失を申し立て、あわせて親権者の職務停止の処分を受け、親権代行者の同意により輸血を行う。時間的余裕がない場合には「2(2)緊急の場合」により対応する。
  2. 親権者の一方が輸血に同意し、他方が拒否する場合
    親権者の双方の同意を得るよう努力するが、緊急を要する場合などには、輸血を希望する親権者の同意に基づいて輸血を行う。

4 当院倫理委員会への報告について

相対的無輸血治療の実施中にやむを得ず輸血療法を行った場合は、当該診療科主任医長は倫理委員会に当該事例の経過等について報告するものとする。

5 訴訟について

緊急の場合において、本人又は家族の意思に反して輸血治療を実施した場合、当該治療行為に関して訴えを提起された際には、医師個人ではなく病院が当事者として対応する。

6 周知について

この方針を広く一般に周知するため、院内に掲示するとともに当院ホームページに掲載する。

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