研修医の声
治すでなく治る
荘内病院に戻ってきて1年半ほど経った現在
日常臨床で疑問に思っていたところの穴埋めが少しずつできている実感があるこの頃
三次救急でも専門病院でもない荘内病院でなぜ?と、戻ってくる前は想像もできない気付きが多いんです
我々の大ボスであります病院事業管理者の八木先生がとにかく凄いんです
国内有数の漢方の実力者で、月1で行われます漢方講義が大局的な考え方でとても為になる...というと安っぽく聞こえてしまうのが悔しんですが
今日はそこを紹介してようと思います。
---
外科をやっていて外科医が口にする、「手術で治す」
致死的な緊急性のある病態であったり、進行癌であれば、手術をしなければ治る見込みはなく、表現としての矛盾はない
若手であれば上級医の指南の元で手術をするから、「自分が」といった意識はあまり持たれないのが令和の時代あるあるだし、他人行儀な若手が多いのも現状です。
一方、私の教育環境は令和に非ず。メスは投げないまでも罵倒&disが日常会話の平成初期のノリであったのもあり、指南はあれども実際やるのは自分に他ならないのだから、「自分が手術をして自分が治し、術後管理も自分がやって、自分が退院させて外来で見守る」という意識が私の中ではまだまだ根強く残る。
「手術をやらせていただいたのだから最後まで責任を持て」
と口酸っぱく言われていたのもありますが...どうでしょう、ここに違和感を感じられますでしょうか。違和感を感じるのも感じないのも、私は理解できてしまいます。
侵襲的な行為の先は、我々が与えたダメージから患者さんがいかに治るかが全てで、おうちに帰るまでの道のりを迷子にならないように細かくガイドしていくのが医者含め医療スタッフの仕事なのだと思います。
「治す」治療はあれど、「治る」治療というのはない
という、単なる言葉遊びに見えその実重要なところに目を向けないのもまた現実と思います。
現代医学は目的があってそれに対する介入をしていくわけですから、客観的指標をもって誰にでも高確率でききそうな治療をやっていくことは至って自然で、治るかどうかは患者さん次第です。
直近の外科の領域では漢方薬が多く使われることが多く、それもエビデンスを以って薬剤会社が推奨をしてくるために我々も西洋薬感覚で使い「効くなぁ」と実感することも増えました。
「東洋医学も根拠を以って西洋医学に使われるようになってきている」
なんてそれっぽいことを思っていたのが2年前の佐藤です。
「しかし東洋医学って何なんだ?オカルトでしょ?エビデンスよエビデンス。」
こう思っていたのもまた、2年前の佐藤です。
救急外来を日中するようになって、普段の客層との違いがどうも目につくようになりますし、週2回もしていれば救急外来へのリピーターさんというのも目に付くようになります。
病気に見えて画像・血液検査をしてもなんの異常もない、そんな方も多くいます。
救急外来の役割として「治療の緊急に必要な方」を適切にあぶりだすことが挙げられ、そうでない方はかかりつけに返すことが挙げられます。
それゆえに、何度も同じ症状できて、検査で緊急性のある疾患がなければ帰すしかありません。
とある日にみた方は頻繁なめまい、動悸で何度もいらっしゃる方でした。
直近でも何度も受診されそのたびに画像精査されて、脳梗塞・脳出血はなし、症状も改善して帰される。
そんな教科書的ないつも通りの対応をして、大丈夫ですよと帰す算段をしていた時のこと。
その方は多弁で神経質にも見えるが、精神疾患持ちには見えない。社会生活をしっかり送られており、本当に症状がありそうな印象。
更年期も重なり、不安感が先行し、自律神経が悪目立ちしているような...そりゃめまいも起きそうな気がする。
なんか漢方が効きそう
漢方講義を2、3効いた私に、よく言語化できないふよふよとした感覚が脳裏に浮かんできたのです。
大ボスの予約をとりあえず取り、後日なんか漢方効きそうなので見てくださいと直談判。
その後、複数の漢方が処方され、繰り返し受診していた救急外来もぐっとこなくなり、繰り返すめまい・動悸発作も消失。
2か月で5回ほど受診していたのが、その後2か月で1回になり、それ以降は受診はなく経過しました。
外来紹介から1年経ったつい先日
「もう漢方の薬も2日に1回まで減らせたよ。症状も全くない。」
私が漢方外来に紹介し、著効したチャンピオン症例となりました。
そこから漢方にのめり込んだ私ですが、月1である漢方講義に参加し(睡魔に負けることもしばしばではあるが)、そこで学んだ薬剤を使えそうな人を探しては大ボス先生、中ボス先生、牛嶋くんに直談判して使ってはどうかとフィードバックを頂きました。
効かない人の人数より、効いている人の人数の方が圧倒的に多く、身近な人にも勧めてみて効いたという人もなかなかにいます。
偉い先生、大ボスに出されたら効くと思うでしょ、と最初は半信半疑だったものが、適切に出せば効くという確信に変わっていきました。
教科書を買って読んでみると、また新たに気づきがあります。どうも大ボスの懐が深いのです。
漢方医学は証を見る。
今現在の症状をみて、効く薬を出すという考え方です。
ですが、当院の漢方は西洋医学的な病態考察も踏まえ、証と比較した上で有効な薬を出す、いわば西洋医学的な東洋医学的思考で、基本効く理由しかないものを出しています。
手術侵襲を受け、炎症がおき、炎症から改善してくる過程でいろいろな部分の不調があり、そこから立ち直ってくる。
西洋医学のみでいけば、炎症に対して薬物治療を行うぐらいが関の山ですが、改善してくる過程で何を使えば直りがよくなるかを議論できるのが当院の漢方です。
言い換えれば手術をするにあたって大事なのは、むしろリハビリみたいな、回復期で手厚いサポートができるようなものです。
また、退院後の不調を改善させたり、明確な西洋医学的に病気ではないところを調整してよくすることもできます。
治る過程で何か介入できないかな、と抱え続けた素朴な疑問。ここの答えは漢方にありました。
治らない膿瘍、吻合部狭窄・・・漢方が効きます。
術後で元気がない・・・漢方が効きます。
夏バテで具合が悪くて疾患になった・・・漢方が効きます。
これらはいずれも実際の症例です。2年前なら仕方ないねで、みんなそのままにしていたものばかり。
学術的に優秀な人たちがやる診療や、ハイボリュームセンターで受けられる専門的な先生方ではたどり着けない領域です。
病態考察と漢方をうまく使えば、状況を打開できることが増えました。
いきなり病気になるのではなく、何らかの体の異変があって病気になるはず。そこに介入できるのは漢方。
病いは気からといいますが、気が滅入るのもまた体の異変から。体も気も変えられるのは文字通り漢方。
といっても西洋が基本で、救急外来でも極力西洋薬しか出すつもりはありませんが、病気の一歩手前だと思われる方へは積極的に漢方を出すなど、自分の手札が増えました。
さらにはこの地の人々のことはなおさらよくわかりますから、パーソナルなところも考慮した鶴岡ナイズされた診療まで一歩踏み込めます。
当院の臨床研修の押しの一つは月1の漢方講義。
医師として一番大事なところを教えてくれたのは漢方講義でした。
日本有数の漢方の大家から生で授業を聞き、陽気で優しい先生ですからアフターフォローも充実しております。
患者をしっかり診て、患者に適したことをしっかり行う。医師として最も基本的なところを学べるのもまた漢方のいいところかと思われます。
私自身、研修医の時に聞きたかったですし、これまで執刀してきた患者さんにも漢方を出したい場面が多くありむしろ申し訳なささえ覚えます。
東京で廃課金しなければ得られない治療が、低額で受けられてしまう鶴岡市民は恵まれていると思われます。
一生ものの芸の肥やしになります故、当院見学や実習の際はご一考いただけますと幸いです。
元研修医 佐藤
2026年09月21日

