研修医の声
重湯の話
「美味しくないんだけど...重湯食べてみる?」
術後3日目、ないしは炎症性腸疾患で絶食後の患者さんに、食事開始の際よくボスが使う定型句。
聞きなれたその言葉が放たれたとある月曜日、8東は瞬く間に戦場となった。
「...美味しくない?アン?」
栄養のボスが唸る。
そりゃそうだ。
管理栄養士はごはんにプライドを持っている。
看護師さんに「縫い目汚いけど」なんて言われた暁には、外科医は「お前がやってみろと」と傷害の容疑に晒されるのに煽り、その後パワハラ委員会で審議されごめんなさいだ。
食事形態は複数ある。
米だけでも重湯、三分、五分、七分、全粥、米飯以上に種類があるのだ。
中でも重湯は始まり食事だけあって、こだわりがあるものだ。私は食べたことがないけれど。
またあくる日。
重湯美味しかった?と患者さんに問う。
「醤油の実が美味しかった」
栄養のボスは得意気だ。
しかし、佐藤ここに違和感を感じる。
「どこのだ...?」
一般にスーパーで売っているのはハナブサ醤油のものだ。
ハナブサ醤油といえば、近隣のラーメン屋でよく使われる、庄内エリアでなじみ深いもの。コクもキレもあり、魚介だしに適している。
ただ値段がそれなりにする。赤字経営で苦しむ当院が高級な醤油の実を出せるはずがない。
どこから仕入れているのだ...?
「マルノー山形から買っていて、確か鷲田民蔵」
知らん醤油の実だ。
調べれば県産大豆を用いた地産地消の商品のようだ。
値段は...ハナブサ醤油より少し高くないか?
興味が止まらない佐藤はその日その足で主婦の店イーネに。
醤油はヤマサの生醤油ばかり買っていたが、よくよく見ると鷲田民蔵の醤油が陳列されているではないか。
なんならよく使う月山田舎みそ、これも鷲田民蔵ではないか。
醤油の実全部食べるのはむずかしいので、鷲田民蔵の醤油を買って早速使ってみる。
今日のレシピは鶏むね肉の豆乳煮込みだ。
減量食として有能な鶏むね肉を美味しく食べるべく、低脂質低糖質な豆乳を用い、台湾料理でも豆乳とよく合わせられる醤油で香りをつけるのが狙いだ。
鶏むね肉をたたき、片栗粉をまぶして、オリーブオイルで両面5分ずつ焼き上げる。この際、鶏むね肉の焼き面に触れないよう、細かくスライスした玉ねぎ、きざんだエリンギ、シメジも散らし、アルミホイルをかけて上から水の入った鍋で鶏むね肉を圧挫する。
接地面はカリカリに焼け、野菜は蒸されるという二段構えの調理だ。
焼けたところで豆乳、雑にコンソメを入れて軽く煮込み、最後に醤油を回しいれ、鶏むね肉をフライパンの中で雑にほぐして完成だ。
するとどうだろう、醤油の香りが豆乳の中から立ってくる。
まるで小学生の夏休み、ラーメンの出前を頼み届くのを心待ちにしていた時に「えーっす」と頭を丸めた店主が少しずつ近づいてきて少し笑みを浮かべるようだ。
すごい、すごいぞ鷲田民蔵。
これが地元の力か。
今日も鶴岡にやられた。地産地消最強だ。
患者さんも醤油でこれだけおいしいのなら、醤油の実もおいしいに違いないし、具合悪くても食べられるなぁと納得。
実際に患者さんからの醤油の実へのラブコールは根強く、退院しても買って食べると言われる方も多い。
重湯は...?とも思うが、これもおいしくないわけがない。
地元のはえぬきを用いた重湯だぞ?はえぬき特有の米感とほのかな甘さが抽出されているのだから、間違いなくおいしい。
...いや言葉にしていて思うが、はえぬきよりはミルキークイーン、コシヒカリの方が美味しいかもしれません。米の質的に。
そう思いながら改めて鷲田民蔵を調べると、私が食べた醤油の原産はインド製造かアメリカ製造との記載が。
なんだか申し訳ございません。
落ちとしてはいまいちだが、何としても解像度が高まったし、地元を紹介できたしいい記事だ。
マルノー山形さん、鷲田民蔵さん、いつもありがとうございます。
元研修医 佐藤
2026年09月15日

