研修医の声

荘内病院と山形県の奨学金の実際を考察

今年は荘内病院の奨学金を借りる人がいないらしい

そんな話をちょいちょい耳に

だってお金借りたら荘内病院で働かなきゃいけないんでしょ

非医療者からこんな言葉を聞くと、ああ、何も知らない人はそう思うんだろうな、と少し肩を落としたくもなる

さらに何も事情を知らない市民からすれば

医者なお金だせばならいるあんろ

学費何千万だんろ

なーんてのも

大体が調べたこと無い人の適当な噂話(エビデンスレベルZ)みたいなのですから

学費何百万みたいなのは私立医大に限るお話で、国立医大であればせいぜい年間60万、6年で360万程度で文学部とか理学部とか他の一般学部と同じ学費ですよ

国立に入れさえすればどこぞの専門学校やら、私立の普通学部に行く方がお金がかかるもの

国立の方が明らかにコスパが良く、年間の生活費をこみこみにしても貸与型の年間200万程度の奨学金があれば家庭をそこまで圧迫するには至りません

では、いざ国立大生がお金を借りる、となれば様々な奨学金制度があり、どれにすればいいかわからなくもなります。

かくいう荘内病院にも奨学金もあります。市内の某企業の寄付金で成り立つ、市によって運営されている割にお金は市が出所では無いものが。

実はこの奨学金、超コスパが良い制度なのですが...アピール下手な鶴岡市ですからあんまり市民にも知られていません...

借りる人がいない、ということですから流石に...ね

ということで鶴岡出身の医学生、なんなら鶴南生に届くように県内の他の奨学金と比較して何がいいのかを考察していきます。

最低でも考える上で6つ、は着目すると特徴が見えてきます。

①奨学金の額

県内はおおよそ一律年間200万これはどこも変わりないですね

もし仮にこの金額設定が200万を割るようであれば、借り手は居なくなりますから

②期間の縛り

一般的には借りている期間の1.5倍、最低7年。県内の奨学金もすべてそうですね。

荘内病院の奨学金は1.2倍とどこよりも短いです。加えて最低5年。といってもトータル6年と実際計算すると1年しか差は出なくなります。

しかしそれは6年借りた場合。上手く借りれば、この縛りの期間が相当に緩くなります。

最も差が出るのは期間を縛って4年借りた場合。

私も制度が発足してから借り始めた為、借りたのはたまたま4年になり最もコスパが良くなってしまいましたが。

4年の場合は1.2×4≒5年の義務となり、初期研修を含めての5年なので、実質ここで研修した場合は残り3年となります。

県内の奨学金を4年借りた場合は義務が6年ではなく、7年となり、初期研修を含めても残り5年

専門医を取ってからも残り2年は義務が残ります。

6年借りた場合の差は1年なのに、4年借りた場合の差は2年になる

そもそも借りる人間の前提条件が6年である為に、なかなか気づかれなかったように思います

ここに着目すれば1.2倍の縛りは人生設計をする点で非常に扱いやすいと言えるでしょう。

③場所の縛り

荘内病院であればもちろん荘内病院

県内であれば県内での縛り。ですが、山形県の奨学金を県内の人間が借りる場合「50,000人以下の市町村の公立病院に2分の1以上勤務すること」と明記されています。ここを悪く言うつもりもありませんが、鶴岡市でさえ10万人いるのにそこよりも小さいところにいるとなると、経験できる症例数の幅であったり、病院の規模が小さいところを義務で働かなければなりません。

勿論、本気でより過疎地域での診療に従事したいと言うのであれば何の問題も無いでしょう。しかし、それなら自治医科大学を選択肢に何故入れなかったのか、という素朴な疑問が残ります。マッチングの際の優先度が県内の人気病院・日本海、置賜、県中等から最優先されますから、結局県内に残るというのにわざわざマッチングで落ちうるリスクを取るだなんて、一貫性が無いように思います。

といっても、そこまでの選択肢や知識を高校生の時点で持つのは不可能な為全て机上の空論になるとは思いますが...。

県内の奨学金であれば山形県内の医局に入ることは必須であり、医局人事で動くためそこまで問題にはならないかもしれません。

④科の縛り

正直これが最も問題かと思います。

荘内病院の場合は、何でもいいから医者になって帰ってきてもらえればいいので縛りは皆無です。もし鶴岡に帰ってきた時に当該科の診療がなされていない場合は、病院かつ市に問題がありますので奨学生が考える問題ではありません。

基本的に来るもの拒まず、去る者追うスタイルですから、やってない診療科でも上手く対応することでしょう。結果的に病院、市にとってプラスになりますからやらない理由はありませんし。

県の奨学金の場合は科を指定された奨学金の場合はその科に進まねばなりません。医学を何も知らないのに科を決めることは相応にリスクですし、たとえその科を知っていても先行きまでは知っていることはまずないでしょう。(私が学生時代に見た科縛り奨学金とは、科が違うように思えるのですが、きっと私だけの印象なのかもしれません。)

また、山形県内縛りの奨学金の場合は科の縛りは明記されていませんが、明記されない科決定の縛りがあるのは想定されます

小さい病院に行くことが義務となっており、その間自分の専攻科の指導医がいない、科がない病院にいく可能性は0ではないでしょう。

科によっては大きなところでなければ研修できないこともしばしばです。

県内の小さい病院縛りvs科縛りに見えて、その人の人生決定の過程で前者であっても科が縛られる可能性は否めません。

もちろん、医局や大学、県が協力してその人の人生選択に不利にならないように努めてはくれるでしょうが、いろいろお話を聞くうえではただ思い通りにいくほど甘い制度ではないとは思います。流石にここに全て書ける話では無いので、あくまで一般論です。

医学って色々な科があってどれもめちゃくちゃ面白いですからね。せっかく医者になるのに縛りがあっては、せっかく頑張った意味が・・・・と苦しんで欲しくはないものです。

⑤時期の縛り

いつからその任期を全うするか

荘内病院はここに関しては相当に緩いです

何せ「研修医でここですぐに」、というのは明記していないからです。これこそが荘内病院奨学金の最大の特徴です。

県内の奨学金では「卒後すぐに県内で研修」と明記されていますし、全国的にもどの奨学金にもそう明記されています。

荘内病院としては、研修医として来なくても別にいいよ、という意思表示です。

というのもこの奨学金が発足した時点から、「10、20年後の未来」を見越したものであるからです。

専門医を取り、サブスぺをかじった脂の乗った30後半から40前半ぐらいの時期から来て欲しい

私も面接の時に当時の院長に強く言われました。

確かに若いうちに修業期間で任期を終えられるのはそこまでプラスにはならないかもしれませんから

それ故に研修医の期間を荘内病院で過ごすことを義務化していません

関東でも世界でもどこにいってもいいから、強くなってから来い、と

しかし実際は荘内病院の研修は充実していますし、一人を除いて全員が初期研修として来ています

実際勧誘していて思うのですが、荘内病院の研修環境のスペック自体は別に奨学生に頼らなくてもフルマッチ可能だと思いますし、鶴岡市特有のアピール不足さえ解消できれば現行制度のままでも若者がうじゃうじゃいる病院には出来る可能性は高いです。

対して、県内の奨学金はただちに県内での研修を義務付けています

縛りとしては県内に医学生を残すためには非常に強力で、よく練られた制度かと思います。これがあるからこそ県内にたくさんの医師が残り、医局に入れてうまく山形大学の勢力を拡大させるにつながっているのでしょう。

県内に医師を増やすことを考えるならば、経済力がつく前の時期に囲い込んだほうがいいです。

1200万を利子込みでも返済させることが出来るようになる前に来てもらった方が、確かにその期間働いてもらえますからいいかもしれませんね。

大学なんかで聞いたのは医師一人当たりの売り上げは年間6000万はある、と。

こと荘内病院で言えばこれだけの少人数の医師で12万人をカバーしてますから、1人当たりに換算すれば億単位の先生もいることでしょう。

経済面で見たときに、この分のお金を病院、市に引っ張ってこれる可能性があると考えれば、利子込みで返済されやすくなるよりかは来てもらいやすくしたほうがいいかもしれません。

この「来てもらいやすくする為にどうすればいいのか」という着眼点で、今の専門医制度を含めてどう考えるのかが奨学金制度の作り手側の論点でしょうね。

しっかりヒアリングしていけばより強力な制度に出来るとは思います。私の中でも強力なアイディアがありますが、流石にこればっかりは越権で調子乗ってますから心の中でしまっておこうかと思います。

よりよい制度と、よりよい研修環境、よりよい指導医陣こそが若手を集める打開策になりうることでしょう。

まとめ

ただただお金のことばかりでしたが、荘内病院の奨学金制度は、借りている側がかなり働きやすく設定されています。

私であれば研修期間を終えて、そこからは県外に出るなり山大に行くなりして専門医取得をしながらキャリアアップを図り、一通り落ち着いたところで残りの三年を消化すること。

その後は任期がなくなりますからそのまま残るもよし、他にいくもよし。

一昨年のここの研修医だった先生で、奨学生でありながらここに最初に来たことで荘内病院とのパイプを持ち、時間があるときに当直バイトにいらっしゃってくださる方もいます。

救急もやり手が少なく、困っている病院です。

そういったつながりを持ちながら、大学で薄給にあえぐところをwin-winで乗り切るなんてのもオプションであるようです。

ここまで書けば荘内病院の奨学金がいかに優れているかわかるはずですが...事情に疎ければ知ることもないですよね

自分から情報を得ようと動かなければ、手に入らないのが現代社会ですから

※ なるたけ他を悪く言わないように努めましたがどこもいい制度であるのは間違いないです。しかし利用するなら上手くできたほうがいいでしょう、というのが個人的な意見ですかね。鶴岡市民なら県のものより荘内病院のを利用した方が色々な意味で情報強者になれるかもしれません。

2年目研修医 佐藤

2019年06月06日

研修医

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