研修医の声

ギンナン中毒

「研修医と一緒に救急入ると、普通じゃない症例ばっかり来るんだよね。まあ面白いからいいんだけど」

と以前救急に一緒に入らせて頂いた先生に一言頂いたのだが、その際たる例を経験したのもまたその先生と

以前、その先生+研修医二人で救診医帯の診療していた時のこと

「主訴:ギンナン中毒」

なんだそれ...としか思えないような主訴

しかもこの方しか居ないのなら、もうブログには書かないでお蔵入りしようかと思ってはいましたが、どうも複数例いるようで

私だけでも2人経験してますし、先日大ベテランの先生からも「ギンナン中毒って知ってる?」と聞かれましたから、もしかしたらこれまで話題にはならなかったにせよ、かなり多くの症例が埋もれているのかもしれない怖い病気なのかも...

私のパワポボックスにはもうまとめられていますがそちらは来年の1年目に向けてですから、鶴岡市民にも病院関係者の目にも触れるこのブログの特長を利用して注意喚起しておこうかと思います

①ギンナン中毒はギンナンを食べすぎるとなります

年の数以上食べるとなるだとかなんだとか言いますが、食べすぎるとなってしまうようで

その地域でよく聞かれる言い伝え通りに、あんまり多くを食べてはいけない食品の様です

鶴岡市内の居酒屋でもこの時期だとギンナンがよく提供されますし、かこなんかではいっつもおいてあるイメージ

手軽に手に入り、癖があってついつい食べてしまう食べ物な為に油断すればなってしまう

主訴がギンナン中毒の方は1日40~60個ほどのハイペースで食べてる方ばかりですね

ただ5個食べてもなる人もいるようですから、複数個食べることは命がけなのかもしれません

そもそも臭い食べ物ですから、人間の体としても「臭いでしょ?危ないからやめようよ」と訴えてきているわけで、食べない方が無難なのかも...

重症例は致死的

私が経験した症例は強直性痙攣、意識障害が初発で、一見てんかんのよう

嘔気嘔吐も激しく、気道確保が重要でした

入院後の経過をカルテ上追っていましたが、厳密な管理はそれほど必要とせず対症療法で軽快した為良かったですが、おおよそより重症な場合は鎮静下での挿管なんかも必要になってくるでしょうから、油断ならない疾患であることは間違いありません

論文検索をしても悲しい顛末に終わったものも散見されます

小児に多い

基本的には小児の病気で、中毒患者の90%近くが小児で成人例はまれ

年齢が低い程重篤になるケースがある、との記述も見受けられます

Fが小児科ローテート中に「ギンナンで中毒はあるんだよー」と先生が漏らしていたのを聞いたことがあるとも言っていたくらいですから、かなり有名なようです

機序は分かっている

ギンナンに含まれる4-O-methylpyridoxineVitB6を阻害することで相対的VitB6欠乏を引き起こす為に生じるようです

ビタミン欠乏と言えば糖利用に関わるVitB1が欠乏して起こる脚気、ウェルニッケ脳症、ビタミンB12欠乏や葉酸欠乏で上手いこと血が作れなくなる巨赤芽球性貧血なんかが国家試験で良く問われますが、他は何があったんでしたっけ

ただそんなん知ってるだけでは意味が無いってわけで、入院中にご飯が食べれない患者さんに使う総合ビタミン剤ノルニチカミンを知ってる方が重要でしょうか

B1、B6、B12が入っており広くカバーされてますからね

治療法にエビデンスは無い

いくら調べても「これやっとけば間違いない」っていう治療法は見つかりません

症例数が少なくて研究もそこまでなされていないようです

そもそもギンナン食べる国って他にあるんですかね

イチョウの木そのものが絶滅危惧種みたいですし

治療法としてはビタミンB6を静注する、というのがありますが、この量がまちまちなんですよ

私が先生にお願いされて中毒センターに電話したところ、提示された量はそれはもうとんでもない量でした

食べたギンナン分いれろって言ってるのかと思うくらい

それに緊急でビタミンB6をアンプルで切って使うような病気はまず無いでしょうし、論文にある通りの量を使おうとしたらストックも十分量必要でしょう

こんなの仕入れた最後産業廃棄物一直線なのでは、、、と思うくらいですが

それに「ビタミンB6を入れたから良くなった。だが、入れなくても良くなった可能性は捨てきれない」としか論文見る限り思えませんから、プラセボと比較して見ないことには何とも言えない

ただ、一発がある疾患故に、悠長なことを言ってられないのでしょう

やって悪くないなら、やらない理由にはなりませんし

いくらレアでも有事の際に救えるように病院側は準備を進めるようですから、安心してギンナン食べられますね

ということでざっくりまとめてみました

世界仰天ニュースでも取り上げており、秘書さんが知ってて私が知らない、何とも不勉強な事態にもなり、ERでもネットで調べて初めて生理学的機序を知った疾患です

これ以来私はERで「ご飯はいつ食べましたか」「何を食べましたか」と聞くようにしています

問診は大事ですね

PS

ギンナンと言えば銀杏BOYSを連想してしまうのは世代だからでしょうか

山形で生まれたバンドですね

中学の先輩がスゴイ好きだったのを思い出します

高校の同期でも熱狂的なファンが私の前に座ってましたし、やっぱり世代ってことですかね

当時よりかは私もギンナン耐性が付いたことかと思います

年とったってことですよ

1年目研修医 佐藤

2019年03月02日

研修医

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